ともいき2021創作×地域展示 水、呼吸、いのちのかたち(手の世界制作-2)

会期は2022年4月30日(土)まで延長しました

開催趣旨

 松前記念館(東海大学 歴史と未来の博物館)では、2022年3月1日から企画展「手の世界制作-2」展を開催いたします。国籍や年齢、性別、障害の程度や状態にかかわらず誰もが文化芸術を鑑賞したり、創作したり、発表したりする機会を創出し、またその環境整備を目的とする神奈川県と東海大学の協働事業「ともいきアートサポート事業(創作×地域展示)」の2年目の取り組みを中心に、その他のワークショップなどの成果を紹介します。
 本年度の「ともいきアートサポート事業」では、大学所蔵のアンデス・コレクションの中から「笛吹きボトル」を活用した造形WSを平塚盲学校で行うとともに、新たに伊勢原養護学校伊志田分教室との連携を開始し、「縄文」をテーマとした水粘土による造形WSを実施しました。展覧会タイトルにもある通り、本展覧会では、生命の根源である「水」や「呼吸」をテーマとして、それぞれの「いのちのかたち」を表現しました。児童や生徒が制作した笛吹ボトルや造形作品に加え、北区文化振興財団・つくばアートメダルプロジェクトとの連携による造形作品、現代美術家である間島秀徳氏の日本画作品も紹介します。
 「手」がつくりだす創造の世界を通じて、人と人とのコミュニケーションや相互理解のあり方に想いを馳せる機会となれば幸いです。
松前記念館

水、呼吸、いのちのかたち 手の世界制作-2 オンライン展示
主催:東海大学松前記念館/神奈川県
後援:伊勢原市/伊勢原市教育委員会/平塚市/平塚市教育委員会
協力:伊勢原養護学校/平塚盲学校/東海大学教職資格センター/東海大学文明研究所

ともいき2021創作×地域展示

会場風景1
「水、呼吸、いのちのかたち」展 会場風景
写真左:コンゴウインコ象形鐙型鳴笛壺 North Coast of Peru 東海大学文明研究所所蔵(11571-389) ペルー北海岸 ビクス‐モチェ文化(前100~後700年)
Photo by Akihiko Iimura
会場風景2
「水、呼吸、いのちのかたち」展 会場風景
写真左から 間島秀徳《Kinesis No.548(seamount)》、《Kinesis No.640(Cosmic Colors)》、亀井岳《映像作品》、平塚盲学校児童・生徒の作品(笛吹きボトル)、間島秀徳《Kinesis No.548(seamount)》
Photo by Akihiko Iimura

ともいきアートサポート事業 創作×地域展示

相場 延弘(神奈川県福祉子どもみらい局共生推進本部室)
 神奈川県では、「ともに生きる社会かながわ憲章」の理念に基づいて、障がいの程度や状態にかかわらず、誰でも文化芸術を鑑賞、創作、発表する機会の創出や環境整備を行うため、「ともいきアートサポート事業」の展示や創作活動支援等を令和2年度から実施しています。
 令和3年度は、4か所で「創作×地域展示」を実施していますが、東海大学とは平塚盲学校との連携事業を前年度から継続して実施し、伊勢原養護学校との連携事業を新規に実施することとなりました。
 新型コロナウィルス感染症の感染状況が拡大し、一部授業(ワークショップ)が中止となってしまったことは残念でしたが、平塚盲学校では笛吹ボトルの個人制作、伊勢原養護学校では水粘土による生徒個人及び全体制作を行うことができ、ここ松前記念館において、一堂に展示することができました。
 展示会自体も、感染状況の拡大を受け、リアル展示は平塚盲学校・伊勢原養護学校・東海大学などの関係者限りとし、オンライン展示が中心となるなど、幅広い広報周知ができなかったことは残念でしたが、オンライン展示について、伊勢原・平塚市内の小中学生へ地区校長会を通じて周知を図ることができました。
 関係者の皆様には、今年度もコロナ禍での調整に御苦労をおかけしました。改めて、深く感謝申し上げます。また、今回の平塚盲学校及び伊勢原養護学校での貴重な経験が、児童・生徒の皆さんの心に残り、将来に生かされていくことを願ってやみません。
会場風景3
「水、呼吸、いのちのかたち」展 会場風景
平塚盲学校児童・生徒の作品(笛吹きボトル) Photo by Akihiko Iimura
会場風景3
「水、呼吸、いのちのかたち」展 会場風景
伊勢原養護学校伊志田分教室の生徒の作品「ナニモノカ」をつくる(奥は堀江武史氏の作品)
Photo by Akihiko Iimura
会場風景3
「水、呼吸、いのちのかたち」展 会場風景
伊勢原養護学校伊志田分教室の生徒の共同制作「思わぬ世界」の入口をつくる(中央は堀江武史氏の作品)
Photo by Akihiko Iimura

平塚盲学校との連携
“ともいきアートサポート事業”ワークショップの構造について

亀井岳(アーティスト)
 “笛吹きボトル“の教育プログラムを行うのは、2019年―2020年に大阪府立大阪北視覚支援学校(大阪北視覚支援)以来、二度目の事である。大阪北視覚支援では、教育指導要領をもとに授業の指導計画を作成して行われたのに対して、今回の平塚盲学校での取り組みは、ゲストティーチャーによるワークショップとして、ある程度自由に行われた。このような形式の違いに伴いそれぞれの成果があったと言える。
 大阪北視覚支援では、授業の基本である、教える側(教師)と学ぶ側(生徒)の直線的な構図があり、美術教科の中の造形制作という主題から、古代アンデス地方の笛吹きボトルをテーマとして、生徒は、シンプルで力強い作品を創作した。今回の平塚盲学校では、取り組み前には想定していなかった、立場の異なる多くの参加者があったことが特徴的と言えるだろう。
 まず、ディレクター的な立ち位置として亀井と岡山県立大学の真世土先生、プロデューサー的立場として東海大学の篠原先生、平塚盲学校の沖津先生、ワークショップを受ける者として平塚盲学校の生徒、そして、東海大学の学生がサポートする立場として参加していることがとても大きな影響を及ぼしている。彼らは博物館実習の授業の一環として関わっており、専門性を学ぶ者としてワークショップの主催側でありながら、学生として、平塚盲学校の生徒に寄り添うことができる立場である。言わば、亀井、真世土先生と平塚盲学校の生徒の、“のり代”の役になっている。また、考古学を専門とする東海大学の吉田先生と東京大学の鶴見先生は、本物の古代アンデスの笛吹きボトルを持参し触れさせていただいたということも含めて、異次元の遺物と我々の“のり代”となり、テーマをより深く理解することができた。さらには、神奈川県の関係者の方々、東海大学関係の方、平塚盲学校の先生方、映像撮影クルー、多くの方々が、それぞれの立場でこのワークショップに関わっていた。このように多くの方の参加された構造をイメージすると、参加者が重なり合い、一つの“環”のような構造になっていると考える。この構造の中では、単に、教える側と学ぶ側という直線的で一方向的なものではなく、参加者がそれぞれの立場で関わることによって、それぞれの学びがあり、その響き合い、反射が空間の密度を上げてワークショップそのものを高めていたと言えるだろう。
 多様性がうたわれ、ユニバーサルという言葉の響きが取り沙汰されがちだが、それらを実践することは簡単ではない。ともいきアートサポート事業は、障がい者理解、障がい者の社会参画、障がい者とアートの関わりにフォーカスし支援するものであるが、それらが社会に根付くということは、全ての人が学び合う環境を作ることかもしれない。この発見は私にとって最大の学びになった。

東海大学湘南キャンパスニュース
平塚盲学校でワークショップ「笛吹ボトルの音色~呼吸、いのちのかたち」を実施しています(2021.10.25)
https://www.u-tokai.ac.jp/news-campus/49650/

「2年目のともいきアートを終えて」

沖津有吾(平塚盲学校小学部長)
 昨年度に続き、2年目の取組みとなった今年度のワークショップ。今年度は小学部と中学部、高等部をまたいでの活動となりました。「笛吹ボトル」、小学部の児童はもちろん、おそらく中・高等部の生徒たちも「?」という感じだったと思います。
 1回目のワークショップ。東海大学の貴重なコレクションや真世土先生が作られたレプリカやカットモデルを触察させてもらい、自分たちの作る作品の大まかなイメージを持つことができたのではないかと思います。古代アンデス文明時代の笛吹ボトルの実物に触れたことは児童生徒にとって強烈な印象に残ったようで、「すごいかったね」と後になっても感想を口にしていました。制作に入って、まずは「自分」を作りました。それぞれ思い思いのイメージを粘土で現していました。
 2回目のワークショップでは、「自分の好きなもの、大切なもの」を作りました。家で飼っている大切なペットや大好きな先生など、ここでも子ども達の個性が光りました。
 乾燥や焼成の期間を開けて、3回目のワークショップ。「うまく焼けたかな」「割れてないかな」「どんな音がするかな」など『不安と期待』、子ども達の思いは様々だったと思います。自分の作品が前に置かれ、それぞれ息を吹き込んでみると音の出る笛、出ない笛。息の吹き込み方にもコツがあることを知り、再挑戦。小さい音が出た子はホッとした表情を見せていました。次に水を入れて鳴らします。左右に傾けると音が出ます。スライドさせる方向によって鳴る時と鳴らない時があることに気付いた子ども達は勢いづいて、部屋の中は次第にたくさんの音に満たされていきました。古代アンデスの人達も初めての時にはこんな感覚を味わったのかなと感じられる瞬間でした。
2年目の「ともいきアート」。楽しい講師の方々、児童生徒の支援に入ってくれた東海大学の学生の皆さんと時間を共有できたことは、子ども達にとって貴重な体験になったと思います。ありがとうございました。

伊勢原養護学校伊志田分教室との連携
高校生、大学生とともに『この世界にないものをつくる』

堀江武史(府中工房)
 粘土を使った造形ワークショップを3回行った。
 公開したテーマが『この世界にないものをつくる』で、あえて隠したサブテーマが「『縄文人の気持ち』になって粘土を扱う」である。隠した理由は、「縄文」のワードが縄文イメージを喚起してしまうことを避けるためである。
方法は以下である。
1.粘土の物性を体感し、つかむ
2.ルール(規範)に従う
3.<考えない> 「何をつくろうかな」というような具体的なイメージを持たない。触覚を信じる
4<考える> 最後に自身、他者の作品の「見立て」を行い、手を加えて完成させる
 何も考えずに造形することなどできるだろうか。しかし、粘土の物性に身をまかせ、基本的なルール(カタチや道具)に則ることでそれは可能だ。ワークショップの準備段階で東海大学の4年生が見事に実践して見せてくれたのは幸いであった。
 伊勢原養護学校の高校3年生にも同じように、イメージしない、考えない制作を指示したが、サポートの大学生には、イメージにつながるような高校生への「声掛け」を控えてもらった。これは連携しようとする高校生との接し方に制約を与えることになり、大学生にしてみれば難題だったのではないか。ワークショップではファシリテーターの導きが必要ではあるが、参加者に自発性を求めるものでは言葉を選ばざるを得ないのだ。
 サブテーマが『縄文人の気持ち』である。縄文時代の粘土造形の大多数は「この世界」の模写ではない。縄文人が求めたモノは「この世界にないもの」ではなかったか、との仮説をもとにプランを立てた。模写や写実に重きを置く「美術」は、作品の制作から解釈まで視覚を優先して行われてきた。今回はそうではないモノを、粘土の持つ「先導力」を手で感じながら、参加者とともにつくってみたかったのである。
 高校生たちは出来上がりのイメージを持たない分、粘土紐や球体の精度、粘土の厚みや水平への集中したこだわりを見せた。何も考えないから短時間で終わる、ということにならないのは、生徒が後で述べたように粘土に魅力を感じるからである。粘土の先導力は時を忘れさせるものなのだ。
 最後の時間に男子生徒が嬉しいことを言ってくれた。
「私は絵が苦手ですが粘土なら少し自信がつきました」
 アートの制作とは絵の「上手な」限られた人たちだけのものではない。もっとたくさんの人たちが、没入して気持ちを豊かにするものであるはずだ。暮らしと密着していたはずのアートとは、視覚優先の「特別な」ものではないだろう。粘土造形の前にまずはデッサンを、というやり方は、人々から自信を奪い、人々をアートから遠ざける。豊かに生きる手立てとしてのアートを取り戻したいものである。

東海大学湘南キャンパスニュース
伊勢原養護学校伊志田分教室で粘土造形ワークショップを実施しました(2021.11.24)
https://www.u-tokai.ac.jp/news-campus/50991/

東海大学との連携事業「ともいきアートサポート事業」を終えて

金森紀子(伊勢原養護学校伊志田分教室 室長)
 ワークショップのお話をいただいた時に、アーティストの指導による新しい「形にとらわれない造形の体験」と大学生との交流など、生徒が普段の授業とは異なる新しい経験ができることに貴重な価値があると考えました。卒業を控えた伊勢原養護学校伊志田分教室3年生が「ともいきアートサポート事業」に参加させていただくことになりました。
 今回の「考えないで作る」というテーマの造形ワークは、従来の授業で行う「明確な目標やねらいを教員が立て、生徒が何を作るか考え、完成形をイメージさせた上での制作」とは、全く異なる発想で、生徒も教員も戸惑いながらも、とても斬新で魅力的なプロジェクトでした。
 「道具で遊ぶ」「粘土をよくこねる・いじる」というテーマのもと、生徒たちは次第に道具や粘土と手が一体化させて制作に没頭していきました。「うまく作らなければならない」という観念から解放されたときに、本来の持つ力が発揮されるのかもしれません。
 作品が出来上がった時の生徒は、「楽しかった」「自由な発想でできた」などと感想を口にして、とても満足そうな表情でした。
 今回、造形ワークを通して大学の皆さんとの交流ができたことも、生徒にとってとてもよい経験でした。
 4月から社会人となる生徒にとって、またこれから社会でご活躍される学生さん方にとって、このご縁が、新しい「世界への入り口」としての貴重な時間となり、これから出会う様々なことを新たな視点で捉えるきっかけとなってくれることを願っています。